ながいながいかみのおひめさま
コーミラー・ラーオーテ 文 ヴァンダナー・ビシュト 絵
木坂 涼 訳 アートン
むかし あるところに 長い長い黒髪のパリニータというお姫さまがいました。ご両親の王様やお后様にとっても娘の黒髪は自慢の髪であり、毎日100人もの召使が彼女の髪を梳かしオイルを塗り、花や宝石で飾り立てました。ところが、その黒髪が重くてパリニータ姫は長く歩くことが叶いませんでした。いつもお城の窓から遠くの山々を見つめるだけでした。そうして姫の18才の誕生日が近付いて来ました。誕生日の前の晩に開かれた祝いのパーティーで王様は姫に、「お客の中から、1番勇敢で1番お金持ちで1番素敵な王子様と結婚するのだ。」と言いました。そこでパリニータ姫は・・・。
「うわー、ついにここまで来たかー」ってのが読後の印象です。
私達世代の女性にとって「プリンセス物語」というのは、どれだけ紆余曲折があっても結局のところ最後の最後で愛する王子様が現れてお姫さまを幸せにしてくれるものだったんですが、この絵本はとうとうそんな次元をも軽やかに超えて行ってしまいました。こうしてみるとホントに目からウロコです。どうして私達はあんなにも「王子様」や「幸せな結婚」に拘らなければならなかったのか。パリニータのように道はいくらでもあったのに。
あとがきで、訳者の木坂涼さんが《・・・この絵本は不思議な魅力にあふれています。書きだすといくつもあるのですが、一つに絞るとしたら、お姫様が途中のページからいなくなってしまうことでしょうか。普通、絵本の主人公は最後の最後まで絵の中にいますよね?ところが途中から、お姫様が消えてしまいます。・・・》という面白い着目点で語られていますが、その珍しい手法さえも暗示的に思えるんです。私達はいくらでも物語の主人公を降りることが出来る。それさえも決して難しいことではない、と。ラプンツェルも、パリニータくらい突き抜けた生き方を選ぶことが出来ていたら、また違った物語を紡げていたのに、と思わされます。
インドの絵本作家さんだけあって、絵もエキゾチックで魅力的です。細部にわたって描き込まれたパリニータの髪のなんと美しいことか。線だけで、こうも艶やかに輝いた髪を表現できるものなんだなーと感嘆。パリニータが消えてしまった後のページも絵の魅力が最後まで薄まらないところも素晴らしいです。
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