« 2004年4月 | トップページ | 2004年6月 »

2004年5月30日 (日)

『のっぽのサラ』

今月読んだもので、なかなか感想を書けなかったものをぼちぼちと・・・。
しかし、「本の感想」というのは、いざとなると難しいもんだなぁ。
よく、食べ歩きのレポーターが「美味しい!」の他に余計な形容をダラダラと喋ってるけれど、考えようによっちゃ、「本の感想」もそれに似てるのかも。「面白い」作品には「面白い」だけでいいんじゃないか、なんて思うこともある。
*** *** ***

のっぽのサラ
『のっぽのサラ』   パトリシア・マクラクラン 作
金原瑞人 訳   中村悦子 絵   徳間書店

アンナとケレイブという姉弟とお父さんの住む大草原のど真ん中の家に、ある日サラという女性がやってくる。彼女は、お父さんの「結婚相手、求む」という新聞広告を見て、一緒に暮らせそうか、試しにやってきたのだ。アンナもケレイブも大喜び。すぐに二人はサラのことが大好きになるのだが、果たして海の好きなサラがこの大草原に残ってお父さんと結婚してくれるのだろうか・・・。

読み始めたとたん、アンナとケレイブ姉弟のまだ見ぬサラへの思慕が一直線にサラに向かって溢れ出していく様に圧倒された。お母さんが亡くなったあとお父さんと3人だけで、広大な大草原で寄り添って生きてきた姉弟にとって、新しい家族になってくれるかもしれぬサラへの期待はあまりにも大きい。

読者もいつのまにか姉弟と一緒にサラの登場を心待ちにし、実際に現れたサラを日々知っていくうちに一段と彼女を好きになり、そしてこの大草原に残ってくれるように祈る。まさに読み手は姉弟と一心同体となる。

しかし、今のわたしならサラとも一心同体になれるのだ。彼女の揺れる気持ちは、海が単に恋しいわけではない。海に象徴される「これまで自分が歩んできた人生」を捨てなければならないことが悲しいのではないか。小中学生がこの作品を読んだとき、(早くサラが決心してくれればいいのに)と思うかもしれないが、ここでサラが揺れ惑うからこそ、大人が読んでも共感できるのだと思う。

ちょっとアーディゾーニを彷彿とさせる中村悦子さんの挿画も素晴らしい。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2004年5月29日 (土)

『貝の火』 宮沢賢治


貝の火
宮沢賢治 作  ユノセイイチ 画
兎のホモイは、ある日偶然にヒバリの子の命を助けてやる。それに感謝したヒバリの母親が、ホモイの元にお礼として、王様から贈られたと言う宝珠「貝の火」を届ける。「貝の火」とはいったい・・・。

堀江敏幸の『熊の敷石』の中で、主人公が、ユダヤ人の友人ヤンとの間に共有される感情を「貝の火」に例えていたことで読んでみたくなった物語。先日テレビで見た『世界遺産』のモンサンミシェルもそうだったけれど、ひとつの物語を読んで、好奇心の枝葉がどんどん広がっていくことがけっこうある。それも物語を読む幸福の一つだ。

読み終えて一番に思ったことは、この「貝の火」という宝を絵で表わす困難さだ。『熊の敷石』では、「貝の火」のことを、《それじたい触れることのできない距離を要請するかすかな炎》と表現していたが、絵となると色で表現するしかない。この「かすかな火」を如何に描くか、画家として「腕の見せ所」と言うか、この困難さこそが「画家冥利に尽きる」と言うところか。

わたしが読んだこの童心社の『貝の火』は油野誠一氏が絵を担当されているが、「貝の火」を単体で丸ごと捉えたページがある。それはもう、妖しくもどろどろと色や濁りが渦巻く中に気泡が浮かんでいるような霞が漂っているような、なんとも摩訶不思議な珠。まるで珠の中からなにやら浮かび出てきそうな気配を感じるほど。さすが油野氏、素晴らしい表現だと思う。

それにしてもこの物語。
宮沢賢治の作品の中でも教訓的な色合いが濃いそうだけど、読んでみる限りではあまり気にならない。ホモイの凡庸さは、われわれ多くの鏡だし、きっと「貝の火」を長く留め置ける人の方が少ないはずだ。わたしたちはこの先もきっと、ホモイの失敗を何度でも繰り返す。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2004年5月 1日 (土)

『おきにいり』  田中清代

おきにいり田中 清代 作・絵    ひさかたチャイルド

まずは、告知から。
来たる5月3日のNHK教育「テレビ絵本」《午前 7:20~7:30 午後 5:30~5:35》にて、清代さんの『おきにいり』が放送されます。朗読は加藤晴彦さん。清代さんならではの、ぴりりとスパイスが効いたこの作品がどう映像化されるのか(BGMや効果音も含めて)、非常に楽しみです。お時間のあるかたは、どうぞご覧になってみて下さい。。。


ちなみにこの作品、うちの三人の息子達の大の「お気に入り」なのです。
主人公のマイペースぶりも、それをあったかく見守るお母さんも、取り巻く友人達の優しさも、みんな素敵。ただ、近所のおばさんたちがヒソヒソと噂話をするページでは、次男が「・・・ムカツク」とは言いますが。(笑)


日に焼けて少し黄ばんだ紙のような風合いを思わせる清代さんの銅版画。わたしは、たむが田んぼのあぜ道を横断中に突然夕立に降られる場面が大好きです。低く垂れ込めた雨雲と、雨つぶ、草いきれ。足元から立ち昇ってくる土の匂いさえしてきそうな、なぜか懐かしい場面なのです。

| | コメント (0) | トラックバック (2)

« 2004年4月 | トップページ | 2004年6月 »