« 2005年5月 | トップページ | 2005年7月 »

2005年6月12日 (日)

つきにでかけたおんなのこ

つきにでかけたおんなのこLa petite fille dans la luma (1998)
ジェラール・フランカン/作   堀江敏幸/訳   フレーベル館

主人公の女の子は、いつでもどこでも、「心ここにあらず」状態で、家族はそれを「お月さまに出かけている」と言ってからかいます。パパもママもお姉ちゃんも弟も、女の子のことを言いたい放題。ある日、ついに女の子は頭にきて、本当にお月さまに家出してしまいました。お月さまは女の子にとって、この上ない居心地の良い場所でした。家族たちの心配を他所に、月での暮らしを楽しむ女の子。月に住む不思議な人々とも仲良く遊び、まるで退屈しませんでした。ところが、ある日、満月が家の前を通った時に、パパとママの元気の無い様子を見てしまったのです。女の子は、とうとう決心しました・・・。

最初にこの絵本を図書館で手に取った時、「この絵、好き!!」と直感的に思いました。いわゆる一目惚れです。筆の跡が残る厚みのある塗り方と、しっとりした色使い。特に多用されている肌色は、まるで本物の「白人の女の子の頬」のように瑞々しく透き通っています。
さて、絵には一目惚れのこの作品。読んでみて、気にかかったことがありました。それはこの女の子には名前が無いということです。お姉ちゃんや弟には名前があるのに、いったいそれは何を意味しているのでしょうか。
それから、女の子の着ぐるみのような服装と月の不思議な住人たち・・・。この2つのキーワードに、わたしはセンダックの『かいじゅうたちのいるところ』を連想しました。『かいじゅうたち…』のマックスも、着ぐるみのような服を着て、ママから遠くはなれた場所へ行って、かいじゅうたちと楽しく過ごしていました。しかし、マックスの場合、ママのことが少しばかり恋しくなって帰途に付くのですが、この女の子はそうではありません。家族がかわいそうだから、自分は我慢して戻る決心をしたのです。そこがなんとも釈然としないラストになってしまう原因なんですが、せめて、戻ったあとの女の子が、家族を愛し愛されて幸せになることを祈らずにはいられません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ツィン!ツィン!ツィン! おたのしみのはじまりはじまり

ツィン!ツィン!ツィン! おたのしみのはじまりはじまりZin ! Zin ! Zin ! a Violin (1995)
ロイド・モス/作   マージョリー・プライスマン/絵
角野栄子/訳   BL出版 (1998)

大きなオペラハウスでの演奏会。最初に登場はトロンボーンの紳士。低い調べは嘆きのよう。 次に現れたのはトランペットの美女。軽やかに軽やかに弾む心。二重奏になりました。3番目はホルンさま。音もたっぷり大らかに三重奏。4つめはチェロの登場。一本足できりりと立って四重奏。次はバイオリン。弦を元気に弾ませて五重奏。六重奏目はフルートの登場。細い銀色、静かに一人。その次はクラリネットの登場。さすが木の笛、音色もなめらかに七重奏。後に参加はオーボエさん。笑うように泣くように遠慮しないで盛大な音の八重奏。次はファゴット。なんて低い音なの?おかしいわ、と九重奏。最後にハープさんが加わってこれでお仲間せいぞろい。オーケストラのできあがり。さて今夜の舞台のはじまり、はじまり・・・。

どこかで見た名前だ!とずっと気になっていたらやっぱり『アップルパイををつくりましょ りょこうもいっしょにしちゃいましょ』を描いた作家さんでした!それでこんなにオシャレなんだァ・・・、と妙に納得。どこかしら、ロートレックのポスター画を思わせる、パリの街角にでも似合いそうな絵。ああ、好みだァ~。(笑)
各楽器の演奏家が登場する時の、それぞれの紹介文がまた洒落ているんです。例えばフルートだと 「なんていい音ふるえちゃう 細い銀色 静かに光り なんてカッコイイの おやせさん」と、角野さんの訳が振るってます。それにその楽器を持つ演奏家のキャラクターが、それぞれの楽器にピッタリ!の雰囲気。わたしが特に気に入ったのはオーボエのおばさん。汗か涙かわからないような水滴を浮かばせて、巨体を思いっきり動かして演奏しています。さぞかし盛大な音色が響いていることでしょう。
それにしても、こうして演奏家の方達の服装を見ると、男性はタキシードか燕尾服しか着ないんですねぇ。女性が華やかな分、なんだか可哀相な気がします。(笑)

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

カティーとすてきなおんがくかい

カティーとすてきなおんがくかいKATIE MORAG & THE GRAND CONCERT (1997)
マイリー・ヘダーウイック/作   大石あさ子/訳   朔北社 (1999)

ストゥレイ島で家族と暮らすカティーはおしゃまな女の子。
この島の人々の楽しみは、自らも出演する音楽会です。歌ったり、ダンスをしたり、詩を朗読したり、楽器を演奏したり、自分のできることをずっと練習しては音楽会で発表します。ところが今度の音楽会には、カティーの双子のおじさんが出演することに決まって、島中大騒ぎ!だって2人は世界的な音楽家として有名だからです。カティーも歌をうたうことに決めて、猛練習を始めました。とうとう音楽会前夜、おじさん達がやって来ました。晩ご飯のあと、おじさん達を目前にカティーは明日のうたう曲を披露します。家族じゅうから大喝采を浴びるカティー。さて翌日の音楽会本番では・・・!?。

なにやら雑然とした雰囲気の印象を受けるイラストなのですが、それがどっこい噛めば噛むほど味がある・・・という作品です。水彩画で色目が薄いのですが、線ははっきりくっきり描かれているので、控えめな自己主張といった感じを受けます。登場人物たちも、泣いたり笑ったり怒ったりとなんとも表情豊か。おまけに見開きの絵からも判るように、やたらと字が絵の中に描かれているのです。例えばお店の中の商品とか壁の張り紙、街角の看板など。その妙に味のある字が作品の雰囲気にピッタリなので、ついつい、いちいち読んでしまいます。

物語の中で、わたしが1番共感した場面は、いよいよ音楽会の当日、舞台の袖から客席を覗いたカティーが、よりによって客席の1番まん前に座った友人が、自分の一張羅のドレスと同じものを着ている姿を発見したときの大ショック!いっきにみじめな気持ちになって大泣きしてしまうんです。これは女の子なら誰しも共感しますよね。
作者のヘダーウィックはスコットランドの作家だそうで、島の暮らしぶりや、カティーの家のインテリアも、素朴なスコットランドの雰囲気がよく伝わってきます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ぼくを探しに

ぼくを探しにシェル・シルヴァスタイン作   倉橋由美子 訳   講談社
THE MISSING PIECE (1976)

部分的に欠けた円の「ぼく」は、その欠けた部分を探しに旅に出ます。旅先で他のいろんな円や、カケラ達に出合いますが、なかなか自分の欠けた部分にちょうど当てはまるカケラに出会う事は出来ません。それどころか、欠けているせいで、転がるにもスピードが出ず、みみずとお喋りしたり、花の匂いを嗅いだり、カブトムシと遊んだり、道草もいっぱい。やっと出会った何個かのカケラとも、上手く行かなかったり、いろんな障害が待ち受けています。そしてとうとうある日、ついに自分にぴったりのカケラと出会ったのです! ところが・・・。

あまりにも有名な、この作品。きっと読まれた方も多いことでしょう。  
作者のシルヴァスタインは残念なことに1999年に他界されてしまいましたが、彼の遺した多くの作品たちは年齢・性別を超えて多くの人を惹き付けています。特に、若い男性にファンが多いのは、絵本界では特筆すべき事ではないでしょうか。全ページ、白の背景に、黒い線で単純に描かれただけの落書きのような絵。そのシンプルさが, 可愛い系が苦手な男性読者にも、受け入れられ易い要因なのかもしれません。

さて、この円が探す「カケラ」とはいったい何を暗示しているのでしょうか。訳者のあとがきによると、例えば理想の女性を追った男の話としても読んでも構わないのでは?ということも具体的な例として挙げられています。確かに、愛情の対象としても成立しうる物語です。
しかしわたしは、このカケラはきっと他者ではないと思うのです。これは、自分の内側にあるもの(あるべきもの)ではないか。だからこそ、体から離れたものはもう2度と元には戻らない。その、ある種の喪失感がカケラを追い求めてしまうように感じるのです。

わたしはこの絵本と高校生の頃に出会いました。あの頃は、自分を理解してくれる、自分を受け止めてくれる存在を追い求めて、カケラを探していました。つまり、自らの満たされない部分を埋め合わせてくれる相手を探していたのです。しかし、あるときふっと思ったのです。そんな幻想を探すのではなく、きっと他にもわたしと同じようにカケラを探している人がいるはず。カケラそのものを探すのではなく、カケラを探している人とめぐり会いたい!

この作品を読むと、非常にせつなくなります。誰しも、満たされない部分を抱えて、折り合いをつけて、人生という道をころがっているのだなって。でも、それはけっして『一人ぼっち』という意味とは違うのですよね・・・。



| | コメント (0) | トラックバック (3)

オレゴンの旅

オレゴンの旅ラスカル/文   ルイ・ジョス/絵   山田兼士/訳  
セーラー出版(1995)   LE VOYAGE D’OREGON (1993)

デュークは顔を真っ白に塗って大きな赤い鼻を付けたサーカスのピエロです。彼は、サーカスで曲芸をするクマのオレゴンと出会いました。ある日、「ぼくを遠い森まで連れてっておくれ。」とオレゴンから話し掛けられて、彼らの長い旅が始ります・・・。

おそらく、わたしがこれまで手に取ってきた絵本の中でも1~2を争う大好きな1冊です。
映画のジャンルには、「ロードムービー」というのがありますが、この作品は言わば『絵本版・ロードムービー』だとわたしは思います。朗読をするなら、男の低い声でつぶやくように、BGMにはJAZZを使いたい。表紙にもなっている、一面金色に実ったトウモロコシ畑に佇む、オレゴンに肩車されたデューク。夕暮れ時の薄紫色の空。ルイ・ジョイスの絵が見事なまでに読み手を圧倒していきます。

ぼくの赤い髪は風になびいて、
ぼくは突っ切っていく、ヴァン・ゴッホの風景のなかを・・・。
もっと美しい場所へと。

この場面の気の遠くなるような美しさといったら、とても言葉では言い尽くせません。ストーリーは小さな人向きではないかもしれませんが、この美しい絵から感じ入るものもきっとあると思うのです。
デュ-クは、自分もオレゴンと同じように、ここ(サーカス)は自分が居るべき本当の場所ではない気付きます。でも、実際にサーカスを出て行く時、ピエロのメーキャップを取れないデュ-ク。自分自身を否定して、コンプレックスにがんじがらめになってたのかもしれません。でも、旅の途中でいろんな人たちと出会うことで、いろんな人生の旅があることに気付いていきます。「世界一でかい国で黒人やってるのは、楽だと思うかい?」とデュ-クに尋ねたスパイクもその1人です。そして、旅先で初めて目にする自然の真実の美しさ。世界の広さ・己の矮小さを実感する瞬間の連続です。
ラストの、デュ-クの後姿と、置き去りにされるピエロの赤い鼻。今にも「ロードムービー」のエンドロールが流れだしそうな見事な幕の下ろし方に、何度読んでもわたしは、ページを閉じることが出来なくなってしまうのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年6月 1日 (水)

『おたまじゃくしのたまーら』

おたまじゃくしのたまーらマイケル・バナード 作   吉田新一 訳   竹山博 絵
絵本には、俳句や短歌のように、季節を味わう楽しみ方があります。その季節ならではの「旬」を織り込んだ絵本を読むと、自分達が今生きている現実の暮らしの中でも、ふと立ち止まって辺りを見回してみたくなります。例えばこの作品も、6月の今だからこそ読んでおきたい1冊なのです。

おたまじゃくしのたまーらは泳ぎが下手で群れから置いてきぼりにされます。優しいドジョウがたまーらの友達になってくれますが、やがてたまーらのからだに2本の足が生えてきて、「足のある生きものが嫌い」なドジョウは去って行ってしまいました。寂しく哀しいたまーらは新しい友達を探しますが、池にはゲンゴロウや水鳥などの危険もいっぱい。そんなある日、たまーらは1匹のカエルと出会うのでした・・・。

何が凄いって、とにかく絵が素晴らしいんです。まるで日本画のよう。掛け軸の定番に鯉や鮒が水辺で泳ぐ柄がありますが、雰囲気はそれに近いです。日本画の持つ清廉さ、繊細さ、簡素さを、この作品で存分に味わうことができるのです。カエルやドジョウ、ゲンゴロウなどの生き物は図鑑顔負けにリアルで、背景の草花や水辺は線や色も柔らかく幻想的ですらあります。この作品の魅力は8割がたこの美しい絵にあるとわたしは確信しています。(表紙画にこっそりリンクを張ってますのでご覧になって見て下さい)

さて肝心の物語は、わたし個人の感想から言わせて貰うなら、「ロマンス」こそ主題のように思われます。見た目がリアルなカエルなので、決して可愛い女の子には見えませんが、たまーらはからだの成長と共にその恋も実らせていきます。二本足が生え尻尾が無くなっていくたまーらの変化が、まるで、思春期の女の子が胸が膨らみ生理が始まっていくようにも読めるのです。やがてたまーらは1匹のとのさまカエルと出会いますが、そのカエルの台詞がまた良い!「しっぽが消えて、君がすっかり大人になったら、またこの水連の葉の上で会おう」と約束するんです。なんかもう、「ニクイよ、このー!」とひやかしてやりたくなるようなキザなことを言って、たまーらのハートを鷲掴み。いやぁ、参りました。(って、絵本読んで悶えてるワタシもどうかと思いますが) たまーらの尻尾はやがて消え、2匹は約束どおり、満月の夜に水連の葉の上で再会します。もちろん、生涯の伴侶となって。あぁ、ロマンティックだなぁ。

  *この作品は「こどものとも」の特製本です。1982年に「こどものとも」として出版されています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2005年5月 | トップページ | 2005年7月 »