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2005年9月29日 (木)

つるばら村のくるみさん

つるばら村のくるみさん茂市 久美子/作  中村 悦子/絵
次男の国語の教科書 ( 東京書籍 ) に「ゆうすげ村の小さな旅館」という単元があり、1学期によく音読の宿題で次男が読んでいました。他人から本を読んでもらう機会の少ないワタシにとって、子どもの音読の宿題は密かな楽しみの1つなのですが、この「ゆうすげ村~」は、 《 小さな旅館を営むつぼみさんのもとにお手伝いに来てくれた人は、実は・・・ 》 という、どことなく安房直子の『うぐいす』を彷彿とさせる印象的な物語でした。それで機会があれば茂市さんの他の物語も読んでみたいなあと思ってたのですが、図書館にずらりと並んでましたよ、「つるばら村」というこれまたステキなシリーズが。

つるばら村でくるみさんが営むパン屋さん「三日月屋」は最近売り上げが落ちていました。どうやらライバル店がオープンしたようです。ライバル店の様子を気にするくるみさん。ところがたぬきの兄弟と立ち話をしたときに話題に登った「プリンパン」のことでヒントを貰ったくるみさんは再び自身の原点を見つめなおします。すると・・・

本当はこのシリーズの初っ端は『つるばら村のパン屋さん』なのですが、知らずに3作目であるこの本を先に読んでしまいました。でもそれも良かったみたい。作者の茂市さんも巻末で 《 シリーズ3作目ということで、お年頃のくるみさんにそろそろ良いお相手を 》 と語っておられますが、くるみさんにも気になる男性が登場します。ちょっと「天然」気味なくるみさんがこれを「恋」に変えるまではまだだいぶ時間がかかりそうですが、それもまたシリーズを読んでいく楽しみになりました。
キャラメルで作るプリンパン、雲のアルコール、ヒマラヤの岩塩、白樺の樹液シロップ、黒豆あんパン、そしてライ麦パンのサンドイッチ。くるみさんが作るパンのレシピの数々は本当に美味しそう。読みながらお腹の虫も鳴ってきます。しかしこの物語の魅力はそれだけじゃありません。くるみさんの三日月屋さんに懸ける情熱こそが、このシリーズを支えている柱だと思うのです。いかなる時も企業努力を怠らないくるみさん。レシピこそ空想のものが使われることがありますが、くるみさんの「仕事」への姿勢は決して子供だましじゃありません。時に厳しく、時に利益を度外視して、本当にパン屋さんという仕事を生きがいにしているのだなあと、その情熱をまるで我が事のように見守りたくなってくるんですよね。
中村悦子さんの挿画も物語の大きな魅力の1つです。ワタシは中村さんの絵を見るたびにアーディゾーニを思い出します。質素で控えめで穏やかで、それでいてロマンティックで。くるみさんの良きパートナーである猫のニボシがお店番をする表紙絵は、木製の額に入れて飾ったらどんなにステキだろうと思うのです。
さて、次に図書館に行ったら必ず残りのシリーズ本を借りて来なくっちゃ。

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2005年9月14日 (水)

やまなしもぎ

やまなしもぎ平野直 再話   大田大八 絵
これからの季節に相応しい作品を選んでみました。

病に臥せる母が「やまなしがたべたい」と洩らしたことで、三人兄弟は山にやまなしを採りに行くことにします。最初は長男。途中出会った老婆の忠告に従わなかった長男は沼の主に飲み込まれてしまいます。帰らぬ長男に次男が行ってみることにします。ところが次男も長男と同じ運命に。残った三男坊も山に分け入って行くのですが・・・

丁度我が家と同じ三人兄弟という家族構成に、いろんな意味で感情移入してしまいました。グリム童話なんかでもそうなんですが、三人兄弟というのは昔話には欠かせないファクターで、そのほとんどが、長男と次男はミッションに失敗し三男坊が成し遂げるというパターンなんですよね。
あまりにも毎度お約束のエンディングに「またか」と思わないでもありませんが、兄弟のうち末っ子が最もしっかりしているということは、きっと民族や歴史を超えて普遍的な決まりごとなんだと思います。それは我が家でも見事に立証されてますから。(笑)
それともう1つ。こうしたお話を子ども達に聞かせてやる場合、末っ子に話を合わせてやるという意味合いもあると思うんです。日頃それでなくても上の子たちに押さえつけられている末っ子に、物語の中でくらい花を持たせてやろうとする計らいなんじゃないかな。これはワタシの見解ですが。

この表紙絵の画像を見ていただいても分かりますが、ホントに素晴らしい装画です。大田さんの絵本画家としてのお仕事には、現代洋画風のタイプもありますが、この『やまなしもぎ』は日本画風の作品。大田さんは、赤羽末吉亡き後の日本画風絵本画家の第一人者だとわたしは思っています。太い線と細い線を上手くミックスさせた柔らかな輪郭で生きものに命を通わせ、余白を生かし色目を押さえたストイックな絵柄で物語をドラマティックに盛り上げていきます。上品で、尚且つ昔話の持つ庶民的な愛嬌もあって、この「やまなしもぎ」は太田さんの代表作の1つだと言えるんじゃないでしょうか。是非、秋の山野の実りと枯れ具合の絶妙な色バランスをご堪能下さい。

参考までに、佐藤忠良作画のこどものとも版もあるそうです。

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2005年9月 7日 (水)

ピアノ調律師

ピアノ調律師M.B. ゴフスタイン 作   末盛千枝子 訳

ルーベン・ワインは腕の良いピアノ調律師です。ずっと1人暮らしでしたが、2年前に息子夫婦が事故で他界してしまい、孫娘のデビーを引き取りました。ルーベンは彼女にいづれピアニストになって欲しいと願っていましたが、デビーが本当になりたかったのは、おじいちゃんと同じ調律師でした。身近でおじいちゃんの仕事ぶりを見るたびにその夢はどんどん膨らんでいきます。そんなある日、町に著名なピアノストであるアイザック・リップマンが演奏に訪れて・・・。

物語中ではデビー自身が亡くなった両親のことを悲しむ場面は無いんですが、おじいさんのルーベンは彼女のことをとても不憫に思っているのでしょう、口に出して「可哀相に」とは言わないまでも、その言動の端々で「わたしがデビーを幸せにしてやるんだ」と固く心に決めていることが伺えます。その決心が、デビーの「調律師になりたい」という希望を認めてやれないことの原因になっていることはある意味皮肉なものです。
ルーベンは、デビーには調律師ではなく演奏家になって欲しいと願っています。それはとりもなおさず、調律師という仕事が裏方であり日の目の当らない地味な仕事だと身を持って知っているからです。愛おしい孫娘には、多くの人から認められ愛される仕事に就いて欲しいと願うのは当たり前かもしれません。もしかしたら、ルーベン自身にも心の奥底にちょっぴりそんな願望があるのかも、とわたしには思えました。
しかし、孫娘デビーの意思は若竹のようにしなやかで折れることはありません。未来をまっすぐに見据え、「調律師」という職業に大いなる希望を抱いています。その頑強なことといったら、迷ってばかりの大人たちには眩しいほど。これくらい真っ直ぐに「成りたいもの」を語れるデビーが羨ましい。
そんな彼女の固い意志に、ついにおじいさんは調律師を目指すことを認めます。しかし、それは同時に荊の道でもありました。祖父と孫という間柄だけでなく、これからは親方と弟子という厳しさも必要になってくるのですから。おじいさんが躊躇していたのは、そのあたりの事情もあったかもしれません。
それにしても、こんな小さな頃から生涯の仕事を見つけられてデビーは幸せだなーって思います。将来おじいさんほどの調律師になれなくて苦悩しても、挫折があったとしても、このときの幸福な気持ちが彼女を支えてくれるはずです。

単色でシンプルな線画のおかげで、余計な雑音を排した「静かな」作品に仕上がっています。読みながら、調律作業で鍵盤を1つづつ叩く音や音叉の鳴る音が聴こえてくるような気配さえします。イラストページの後ろが白紙なのも嬉しい。絵の向こう側に活字が透けて見えてしまうと、せっかくの絵を煩くしてしまいますもんね。そういう意味でも、丁寧に創られた絵本です。


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2005年9月 1日 (木)

『いわしぐもをつかまえろ』

iwashi垣内磯子/作   市居みか/絵

さかなやさんのネコのミーニャは、ある日店先に並べていたイワシを風でさらわれて空に浮かぶ雲に変られてしまいます。売り物が無くなったミーニャは困って、なんとかイワシを空から取り戻そうとスズメやキリンに取り戻してくれるよう頼みますが、なかなか上手く行きません。そこでキツネが知恵を絞ってステキなあるものを売り物にしてくれました。果たしてミーニャのお店に並んだ商品は・・・。

古本屋さんで見つけたステキな絵本です。残念ながらハードカバーにはなっていませんが、たまにこうした掘り出し物があるので絵本月刊誌は侮れません。表紙からも解かるように、市居みかさんの版画絵がとても良いです。動物達の表情も活き活きとして可笑しいし、イワシが空に舞い上がっていく場面の構図も迫力があります。そして何より色使いが非常に好みなんですよね。くすんだ茶系・緑系のグラデーションの中に、スパイス的に秋の澄み切った空を彷彿とさせるきれいな青色がよく映えてます。ぎこちなくとぼけた線には版画絵ならではの素朴な味わいもあって、こんなつるつるの紙質じゃなく、もっとざらっとしたマットな感じで仕上げたらもっと良いのになーと少々残念に思ってみたり。 ( 紙質に関してはやはり廉価な絵本月刊誌には限界もあるでしょうね )

文章も絵に負けないくらい良い味を出しています。さかなやのくせして店先のさかなをつまみ喰いしてしまうミーニャ、イワシを追いかけてまるで「茶色い矢印のように」飛んで行くスズメ、網を銜えて梯子によじ登るキリン、そしてキツネの妙案。最後にキツネが登場した時は、一般的な昔話のイメージから ( きっとこのキツネったら、イワシを取り戻したあかつきには盗っちゃうに違いないワ ) と想像してたんですが、見事に裏切られました。素晴らしい代案を披露して皆に感謝される姿は、これぞキツネのニューウエイブ。  そしてラスト、物語のオチにもまたウフフと思わせて貰えます。このオチ、好きだなぁ。

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