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2005年9月 7日 (水)

ピアノ調律師

ピアノ調律師M.B. ゴフスタイン 作   末盛千枝子 訳

ルーベン・ワインは腕の良いピアノ調律師です。ずっと1人暮らしでしたが、2年前に息子夫婦が事故で他界してしまい、孫娘のデビーを引き取りました。ルーベンは彼女にいづれピアニストになって欲しいと願っていましたが、デビーが本当になりたかったのは、おじいちゃんと同じ調律師でした。身近でおじいちゃんの仕事ぶりを見るたびにその夢はどんどん膨らんでいきます。そんなある日、町に著名なピアノストであるアイザック・リップマンが演奏に訪れて・・・。

物語中ではデビー自身が亡くなった両親のことを悲しむ場面は無いんですが、おじいさんのルーベンは彼女のことをとても不憫に思っているのでしょう、口に出して「可哀相に」とは言わないまでも、その言動の端々で「わたしがデビーを幸せにしてやるんだ」と固く心に決めていることが伺えます。その決心が、デビーの「調律師になりたい」という希望を認めてやれないことの原因になっていることはある意味皮肉なものです。
ルーベンは、デビーには調律師ではなく演奏家になって欲しいと願っています。それはとりもなおさず、調律師という仕事が裏方であり日の目の当らない地味な仕事だと身を持って知っているからです。愛おしい孫娘には、多くの人から認められ愛される仕事に就いて欲しいと願うのは当たり前かもしれません。もしかしたら、ルーベン自身にも心の奥底にちょっぴりそんな願望があるのかも、とわたしには思えました。
しかし、孫娘デビーの意思は若竹のようにしなやかで折れることはありません。未来をまっすぐに見据え、「調律師」という職業に大いなる希望を抱いています。その頑強なことといったら、迷ってばかりの大人たちには眩しいほど。これくらい真っ直ぐに「成りたいもの」を語れるデビーが羨ましい。
そんな彼女の固い意志に、ついにおじいさんは調律師を目指すことを認めます。しかし、それは同時に荊の道でもありました。祖父と孫という間柄だけでなく、これからは親方と弟子という厳しさも必要になってくるのですから。おじいさんが躊躇していたのは、そのあたりの事情もあったかもしれません。
それにしても、こんな小さな頃から生涯の仕事を見つけられてデビーは幸せだなーって思います。将来おじいさんほどの調律師になれなくて苦悩しても、挫折があったとしても、このときの幸福な気持ちが彼女を支えてくれるはずです。

単色でシンプルな線画のおかげで、余計な雑音を排した「静かな」作品に仕上がっています。読みながら、調律作業で鍵盤を1つづつ叩く音や音叉の鳴る音が聴こえてくるような気配さえします。イラストページの後ろが白紙なのも嬉しい。絵の向こう側に活字が透けて見えてしまうと、せっかくの絵を煩くしてしまいますもんね。そういう意味でも、丁寧に創られた絵本です。


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